イギリスのEU離脱って何?わかりやすくまとめました。

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イギリスは2016年の国民投票でEU離脱を決め、2020年1月31日に正式に離脱となりました。イギリスはどうして国民投票を行いEUを離脱することになったのか、離脱後のFTA交渉とは何か?EU離脱の流れや日本・世界へ影響などについて、できる限りわかりやすくまとめました。

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2016年に実施されたEU離脱を決めるイギリスの国民投票で、離脱賛成という結果(離脱賛成52%・反対48%)となり、それ以降、離脱内容や時期についてイギリスは紆余曲折してきましたが、ついに2020年1月31日にイギリスはEUを離脱しました。

とはいえ、EUを離脱すればよいというものではなく、課題は山積しています。

イギリスのEU離脱について、これまでの概要と今後の課題、私たちの生活に対する影響などをわかりやすく解説したいと思います。

そもそもEUとは何か?

eu

EUとは欧州連合の略称になります。

ヨーロッパの28カ国が加盟(2019年4月現在)していて、ヨーロッパの繁栄や自由を保証し、平和と安定に貢献することなどを目指しています。

ヨーロッパの統合の構想は第二次世界対戦まで遡ります。

ヨーロッパでは多くの戦争を行ってきました。その中で特にフランスとドイツが友好関係なり、ドイツが再度戦争を起こさないようにと、ヨーロッパ諸国は画策をしてきました。

当初は資源の共同開発を行うことから始まります。これが欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)と呼ばれるもので、1952年に発足します。フランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ルクセンブルク、ベルギーで構成されていました。

その後、経済やエネルギーなどの共同体(欧州諸共同体・EC)ができてヨーロッパを統合していこうという機運が高まっていきます。

そして、1993年EUが創設され、1998年には統一通貨の「ユーロ」が導入されました。

イギリスは1973年からEUの前身であるECに加盟しています。

イギリスはなぜポンドを使用しているのか

イギリスは自国の通貨であるポンドを使用し、ユーロを使用していません。

このことについては、ユーロの価値を損ねるとも言われていますが、ユーロを導入するとお金の貸し借りの利息などの決定権がイギリスになくなることや、独自の金融政策ができなくなることもあり、一定の経済力のあるイギリスはポンドを使用することにしたのだと考えられます。

なぜ国民投票をしたのか

EU離脱を決定した当時のキャメロン首相は就任時において、2017年までに国民投票を実施すると公約していたのです。

イギリス国内にはEU離脱論が多くあり、選挙では離脱を訴える政党が支持を伸ばしていました。その中でキャメロン首相は2013年1月に国民投票の実施を約束し、選挙ではキャメロン首相率いる保守党が圧勝しました。


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なぜEUを離脱したいのか

EU離脱の争点はいくつかあるのですが、特に移民の受け入れ、ユーロ危機の対応などへの不満があります。

移民の受け入れ、移民対策

2004年にポーランドなどの東ヨーロッパ・バルト諸国がEUに加盟しました。

EUでは人の移動は基本的に自由にできますので、このことによって、ポーランドなどの国から経済状況の良いイギリスには多くの移民が入ってきたのです。

移民が多く入ってくることにより、イギリスの社会保障費など福祉制度にかかる費用が圧迫されているのです。

福祉制度にかかる費用はイギリスの税金を使うことになりますので、離脱派はEUを離脱することで移民が入ってこないようしたいのです。

さらには、低賃金で働く移民に雇用が奪われているという不満も出ています。

ユーロ危機などへの対応について

EUの統合が進んできていることから、EUの政策などで受け入れたくないものも受け入れるという状況があります。

2011年以降のギリシャ問題などによるユーロ危機の際にも、ユーロを使用していないのに負担させられたという思いがあります。

この問題に対する離脱前のキャメロン首相の対応

EU離脱が決まる前、これらのことについて、当時のキャメロン首相はEUに一定の譲歩をさせた改革案を引き出しました。

  • 移民対策については社会保障費の制限を例外的に認めること
  • ユーロ危機の対策についてはユーロ危機が発生した場合に、ユーロを使用していない国に負担させないということ

キャメロン首相はEU離脱はイギリスにとって良いことは一つもないとして、こういった譲歩、改革案をEUから引き出していたのですが、離脱派にとっては、この改革内容では不満だったということかもしれません。

EU離脱の影響

EU離脱が決定し、残留を求めていたキャメロン首相は辞任し、メイ首相へと交代、そして2019年10月には、ジョンソン首相へと交代しました。

今後の動向や離脱の影響を考えてみたいと思います。

なお、イギリスのEU離脱をブレグジット(Brexit)といいますが、これはBritain(イギリス)とExit(出ていく)を合わせた造語です。

EU離脱に関するこれまでの流れ

EUの離脱の時期についてはEU首脳会議でイギリスから通告することとされ、2017年3月にメイ首相はEUに対して離脱を通告しました。

ここから離脱の交渉が開始、交渉期間は基本的には2年で、場合によっては延長ができることになっていました。

当初の離脱期限は2019年3月29日とされていました。

しかし、メイ首相の作成したEU離脱の協定案は、イギリス議会で否決されました。

このことから、メイ首相とEUは離脱の期限を、2019年10月31日まで延長することを決めました。

しかし、EU離脱の条件がまとまらず混乱が続くなか、その責任をとってメイ首相は辞任し、後任としてEU離脱強硬派のボリス・ジョンソン氏が新たな首相となりました。

なぜメイ首相の協定案にイギリス議会が承認しなかったのか

離脱への道筋ができず、離脱時期が延長になっているのは、メイ首相の協定案をイギリスの議会で、野党だけでなく、与党である保守党の離脱強硬派の議員などの一部が納得せず、承認しなかったからです。

協定案は、イギリス国内で問題となっていた、ヨーロッパとイギリス間の人の自由な移動やEUへの分担金の支払いをやめるなど、離脱派の主張を入れつつ、貿易協定については離脱してから2020年末までを「移行期間」として、そこで決めることとしています。

中でもバックストップが問題に…

貿易協定については、特に国境が陸続きになっているアイルランドとの間のことが問題で、離脱によって厳格な国境管理になってしまえば、以前のような紛争が再燃する危険性があるといいます。

そのため、貿易協定の内容が国境管理を明確に解決できるものでなければ、イギリスはEUの関税同盟に残り、アイルランドとの国境はこれまでどおりにするという内容が、離脱の協定案に含まれています。

これを「バックストップ」と言い、事前に保険をかけておくという意味です。

貿易協定はイギリスがEU離脱のメリットとしている点ですので、これが特に議会で受け入れられていない点になっています。

結果的に議会と折り合いがつかず、メイ首相は辞任することになりました。

ボリスジョンソン首相になってから

メイ首相の後に首相となったボリスジョンソン氏は、当初2019年10月31日のEU離脱を掲げていました。

合意案の内容はバックストップの条項を削除し、2020年末までのEU離脱の移行期間終了後は、北アイルランドも含めてイギリスがEUから離脱するという方針にしました。(ただし、北アイルランドの関税手続きについては、EU基準に合わせる内容としました。

この内容は離脱協定案としてEUは承認しましたが、結局イギリス議会で承認されず、EU離脱の期限を2020年1月末として、2019年12月に下院の総選挙を実施しました。

総選挙は、ジョンソン首相が率いる与党の保守党が過半数を獲得しました。(イギリス議会は上院(貴族など)、下院(選挙)とされ、下院が上院に優越します。)

選挙前は与党・保守党は第一党であるものの単独過半数はに足りてなかったのですが、今回の選挙で定数650人のうち365議席を獲得し、単独過半数となり、歴史的な勝利を納めたのです。

2020年1月31日にEU離脱

選挙の結果を受けて、イギリス下院ではEU離脱関連法案が可決し、2020年1月31日にEU離脱が実現しました。

イギリスは1973年からEUの前身であるECに加盟していますが、47年間の加盟の歴史に幕を下ろしたのです。

EUからの正式離脱はイギリスが初めてとなります。

EU離脱後にも課題は多い

ついにEUを離脱したイギリスですが、これで決着がついた訳ではありません。

離脱後は、貿易のルールなどがなくなりますので、イギリスはEUやその他の国と自由貿易協定(FTA)を締結する必要があります。(FTAを締結しないと世界貿易機関(WTO)ルールの関税となってしまう)

2020年12月までは、離脱後の移行期間として、関税などはこれまでどおりとなりますので、それまでの間に自由貿易協定(FTA)の締結をする必要があります。

離脱後の移行期間は延長できる

今後のスケジュールとして押さえておきたいのは以下の内容です。

  • 2020年6月30日:移行期間延長の可否または延長期間を決める
  • 2020年12月31日:延長しない場合の移行期間終了日

2020年6月30日までに移行期間を延長するのかしないのか、延長する場合は1年延長なのか2年延長なのかを決めます。

移行期間の延長は1回限りとされていますので、6月30日の延長決定は注目されるところです。

現状では移行期間の延長はないものとして、EU離脱関連法が成立しています。

自由貿易協定(FTA)締結にも課題

これから自由貿易協定(FTA)の交渉に入っていく訳ですが、難航すると考えられるているのが、以下の2点です。

  • 漁業権の問題
  • 同一競争条件の問題

EU加盟国は、一定の制限はあるものの、加盟国内の水域に入って漁業をすることが可能でした。

イギリスは海に囲まれていて豊かな漁場があるため、これまではEU加盟国がイギリスの漁場で多くの漁獲をしていました。

EUはこれまでどおり、イギリスの水域で漁獲したいと考えていますが、イギリス国内では他国がイギリスの漁場で漁を行うことに不満が高まっていたため、ジョンソン首相は今回のEU離脱で漁業権をしっかりと確保しておきたいと考えています。

もう一つの同一競争条件の問題とは、イギリスが企業への補助金、税制、労働基準などの水準をEUと同等のものとするよう求めていることです。

自由貿易協定(FTA)交渉では、EUもイギリスも関税をゼロにする協定を目指していますが、イギリス政府が企業に対して補助金や税制面などでEUより優位にしてしまうと、イギリスとEUの企業で適正な競争ができなくなってしまいます。

そういったことのないよう、イギリスとEUで同一の水準にしようというものです。これもイギリスとどこまで交渉が詰められるか、不透明な状況です。

このように課題がある以上、2020年中に自由貿易協定(FTA)をまとめるのは難しいという意見もあります。

日本もイギリスと個別に自由貿易協定(FTA)を締結する必要があり、私たちの生活にも影響が出てくる可能性があります。

自由貿易協定(FTA)の合意をせずに移行期間が終了することも考えられますので、今後の動向には注意が必要です。

自由貿易協定(FTA)がまとまらない場合の影響は?

イギリス議会で承認されたEU離脱関連法では、離脱の移行期間は延長しないとされ、2020年12月に交渉は終了することとなっています。

自由貿易協定(FTA)交渉がうまくいかないまま移行期間を終了すると、イギリスとの間に関税が発生する可能性があり、「合意なき離脱」のような状況が生じるリスクがあります。

この場合のリスクについて、以下にまとめました。

世界全体の景気後退

eu3

合意なき離脱のような状況になれば、景気後退になっていくことが考えられます。

国際通貨基金(IMF)が2020年1月に公表した世界経済の見通しは以下のようになっています。

2020 2021
ユーロ圏 1.3 1.4
イギリス 1.4 1.5

また、以前にイギリスのシンクタンクが予想した「合意なき離脱」をした場合の経済成長率の予測は以下のようになっていました。

合意あり 合意なし
2019年成長率 1.9% 0.3%
2020年成長率 1.6% 0.3%

IMFが公表した経済成長率の予想はブレグジットがなくなったことにより好転したものです。

今後、貿易交渉に不透明感が出てくれば、成長率の鈍化に繋がる可能性があります。

国境管理、貿易関税が発生する

自由貿易協定(FTA)が合意に至らなければ、移行期間が終了すると世界貿易機関(WTO)の規定に沿った関税が発生します。

例えば、イギリスとヨーロッパ諸国との貿易では自動車に10%の関税がかかってきます。

関税の問題は輸出入ともに起きる問題なので、イギリスだけでなく、ヨーロッパ諸国についても同様の影響が考えられます。

また、国境を通過する際の手続きが発生しますので、大きな混乱が予想されます。

ポンド安・株安

経済事情が大きく変わり、イギリスの経済に貢献している企業の動向が不安定になり、ポンドの信用が下がることが予想されます。

EU離脱時点の1月31日は合意なき離脱が回避されたことから、ポンドは比較的しっかりとした値動きをしています。

EU離脱の国民投票の際には、ポンドはドルに対して大きく下落しましたが、今後は自由貿易協定(FTA)交渉に注目した値動きがあるかもしれません。

また、企業への影響もあるため株価も大きくさがると考えられます。株価についてはイギリスだけでなく、世界的に影響を受けることになるでしょう。

自由貿易協定(FTA)が合意しない場合の日本への影響

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日本とイギリスの自由貿易協定(FTA)交渉も大切ですが、EUとイギリスの自由貿易協定(FTA)がまとまらなくても、大きな影響があると考えられます。

為替については、ポンド安になることから逆に円は高くなります。

円は世界的に安定通貨といわれていることもあり、こういった危機においては特に円は買われる傾向にあります。

円高になれば日本の輸出産業には大きな打撃となりますので、輸出関連の株にも影響が出ます。

また、イギリスに進出している日本企業は合意なき離脱を懸念して、すでにヨーロッパへ移転しているところもあります。

今後は自由貿易協定(FTA)交渉とともに、企業の動向も重要になってきます。

まとめ

イギリスのEU離脱・ブレグジット、離脱後の自由貿易協定(FTA)などについて、簡単にまとめてみました。

EU離脱後にも課題は多く、今後も動向を注意しておくことが大切です。

(ライター:FP1級技能士・CFP)


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